※景虎ちゃん不感症説(独自研究)に基づいたSSです
「もう、やめにしませんか」
乾いた笑顔は、疲れ切っていた。この女もこんな顔をするのか、という感慨を一瞬忘れてしまうほど、その表情に気を取られた。
何も身に着けないまっさらな肉体を隠すこともない、この女にはあたりまえの羞恥の念がない。体の外側をまさぐられ、内側を暴かれてもこの女は快楽を覚えることはない。何度繰り返しても変わらない。それでも俺は諦めの悪い愚者のように、この女を抱くことをやめなかった。
やめることが、できなかった。
「断る」
そしてこの先もやめることはできないのだろう。いや、やめる気がまったくわかない。なにせやめる理由がないのだから、景虎の要求は断ることしかできない。
こわばった笑顔が、かすれた声が、震えている。
「どうして……ほかに相手ならいるでしょう」
いない。おまえのほかに俺を満たせるものはいない。まっとうな感覚を備えた人間を相手にしてほしいと訴えても無駄だ。俺が求めているのは一時の享楽などではない。
「私は貴方に何をされても、何一つ感じ取ることができないのに?」
「ああ」
「私では貴方をよろこばせることもできないのに?」
「ああ」
景虎は、快楽は知らずとも、苦痛は知っている。
そして俺は、おまえが何を最もつらく感じているのかを知っている。その俺の内心をおまえは察しているのだろう。
おまえを抱いて、何も響かず何も返ってこなくても、俺はそういうおまえを抱きたいのだから。
俺の妄言を聞いた景虎の唇が震える。
「貴方は、私が、苦しんでいるのを見たいだけでしょう。私の体を暴いて、私が――」
その体を抱きしめる。震えは怒りか、悲しみか。どちらでもないのかもしれない。だが、それもどうでもいい。俺はこの、氷のように透明で、焔のように眩い体を好んでいるだけ。
よろこばせたいと思っていないし、自分だって快楽だけを求めているわけでもない。ただお前を抱かずにはいられない。不感のお前に狂いたつ俺がおかしいのならそれでもいい、どうだっていい。肉欲に溺れている間、俺はお前のこと以外何も考えていないし、考える気すらないのだから。
(坂口安吾の「私は海を抱きしめていたい」がヘキすぎて書いたもの)